第七回飛騨高山ウルトラマラソン|リタイアバスからの生還劇vol.3
続き
現在地点:87.4km 第21給水八日町申請野菜販売所
現在時刻:17時00分
第五関門:93.3km 公文書館(あと約6km)
制限時間:17時45分(あと45分)
6kmを45分で走ればいい。キロ8分か。かつて10kmのベストが36分の私にとってこんなのはイージーだ!!イージーすぎる。
普段ならね
今は87kmも走ってきたこの体でキロ8分・・・そして、立ちはだかるは約3km続く清見の山。半分は山登りだということだ。
・・・いくしかない
収容バスを後にして、目の前にそびえる坂を駆け上っていきました。
清見の山は2度やってくる!90km地点通過!
周りを見ると、私以外のすべてのランナーが歩いているようだ。しかし油断してはいけない、彼らはウェーブスタートで私より後にスタートしているから若干の余裕があるのだ。
一度折れた心を奮起させて今もなお走り続けている自分に感服したいところだが、私はたびたびこういうところがある。要は諦めが悪いのだ。後悔をしたくないのだ。
幸か不幸かすぐに登りからスタートしたため、太もも部分に激しく襲い掛かる筋肉痛についてはあまり感じることなく登れている。足の裏の激痛も膝の激痛も今はない。肺は苦しいがキロ8分以内のペースであれば耐えられる。絶対に登り切る!!
これはウルトラマラソンに何回か参戦したことがあるランナーなら分かるかもしれないが、非常に長い制限時間で開催されるウルトラマラソンでは、突如痛みや苦しみ、疲労を感じなくなる感覚に陥るタイミングがある。これを「復活」と呼んでいるが、よく聞く「ゾーン」とはまた違い、能力が上がるわけではない。単純に疲労や痛みがマヒするのだ。
そして、私もどうやらこのタイミングで「復活」が起きているようだ。いつまで続くか分からないが、一気に第5関門まで持っていく!!
10km程前に、とぼとぼ歩いているところに「制限時間間に合わないよ!!がんばろう!!」声を掛けてくれたランナーが何人か見つけ、「やっぱバスに乗るの止めました」と一言。
「がんばれ!!」と声援を背に清見の山をグングンのぼる。長い、長い、まだか、まだか
ランニングウォッチは60km地点で電池切れになったから自分がどのくらい進んでいるのかも分からない。終わりが見えない状態だ・・・くそ
呼吸が激しく乱れて脚が止まりそうになった・・・その時
応援に出てきてくれた観客の一人から「もう少しで軽く下るから!その後が90km地点だよ!!」と情報が。
うしっ!!
背中を押される気持ちで残りの坂道を駆け上がり、そして
90km通過(現在時刻17:18 キロ6分)
第五関門まで後3.4km(あと27分)
第五関門通過!完走は見えた!!
清見の二段坂を乗り越えて関門制限時間までは残り25分。ここからは下り坂だ!
すでに「復活」の感覚は薄れており体中に痛みを伴うが、ここまで来たら死んでも制限時間内に走り切る。
体感でキロ4分30秒ほどで下りを終えて残すは直線のみ。
ふと周りを見渡すと、私と同じ時刻にスタートを切ったランナーたちがいるではないか。そうか、ようやく完走できる時間帯まで追い付くことができたんだ。
少し安堵しながらも、この脚の状態ではいつトラブルが起きるとも限らないのでウォーキングをまぜつつ、貯金も意識して、キロ6分程度を維持するように・・・
そして、第五関門通過(17:35)
残り距離 6.6km
残り時間 75分
最後の大型エイドとなるためしっかりと脚を休めてエネルギーを補給する。そして、残り60分になったタイミングでスタートした。
休んだことにより筋肉が硬くなったのか走り始めに激痛が走る。少しだけ走ってまた歩いての繰り返し。大丈夫。キロ10分でも間に合う。
痛みで意識が飛びそうになるが、気持ちを切らさずにあと一時間、レースを楽しもうじゃない。
走馬灯のようにこの13時間にわたる思い出が頭の中に駆け巡る。
美女高原は調子よかったな・・・飛騨高原スキー場は本当に苦しかった。
千光寺の後は本当に心が折れかけた・・・と思ったら87km地点で本当に心が折れた。
けど、今ここにいる。
ふと横目には最終エイドがある。残り3km。さぁいくか!
飛騨には人を引き付ける力がある
ゴール : 18時30分37秒(13時間45分37秒)
死力を尽くした!!
時には大雨であったり、台風であったり、大雪であったり、ケガも多いし、首が回んないときもあった。レース中にハンガーノックになったり、熱中症もあった。
様々な経験をしてきたが、私は一度もDNFをしたことがないんです。これまでに。すべて完走しています。
そんな私が、はじめてDNFを決意しかけた。本当にきつかった。過去イチ。
しかし、それでも奮起して、やっぱり走り切った後に見えるこの景色は
最高だ
また1年後な
おわり
第七回飛騨高山ウルトラマラソン|リタイアバスからの生還劇vol.2
続き
たとえ走ってないとはいえ、山登りは気合いと根性だ❗平地とは使う筋肉も違うしペースもゆっくりでいい。ただ走るだけで歩いて登るのとはタイムも大きく変わってくるもんだ。
脚ができていない分、下りで飛ばすことも平地でたんたんと走ることもできないことは分かっていたので、今回のターニングポイントは山登り。山でタイムを補えなければ時間内の完走は無理だと考え、前半の山場である美女高原と飛騨高山スキー場はなんとか歩かずに登りきりました。
最高地点到達、これで40km
・・・きつい
想像以上にきつい。脚の裏がものすごい痛い。膝は前日に購入したマグダビットの少しお高いサポーターがうまく機能してくれているおかげか、痛みはそれほどでもないが、脚全体の筋肉疲労、筋肉痛、脚の裏の痛み、お腹と背中の圧迫痛が気力を奪っていく・・・
とりあえず57km地点の大型エイドで寝よう。寝れば回復するはずだ
一縷の望みにかけて、歯を食いしばり山をかけ降りていく。絶対に寝れば大丈夫だ❗
判断ミスからの状況悪化、そして
50kmを越えたところにある地味だけど厳しい登り坂も歩かずに走破。もはや脚はとうに限界を超えて軽く痙攣してすらいるが、気力だけでなんとか走り続けている。大丈夫、完走できるはず。
この日の天気予報は曇りのち雨。小雨程度でも降ってくれれば気も紛れると思っていたが、予想外にも陽射しが射し込み非常に暑い。かけ水を頭からじゃぶじゃぶかけても汗が吹き出してくる。状況は悪化の一歩を辿っていた。
それでもなんとか57kmの大型エイドへ到着。倒れ込むように更衣室のビニールシートに飛び込み、シューズや靴下、サポーター類をすべて外して眠りにつきました。。。
30分後
目覚めたからだは筋肉が硬直しており、その第一歩は激しい痛みが身体中を駆け巡り、とてもこれからフルマラソンと同じ距離を走れるとは思えない状態でした。
ふと横目にリタイアバスが控えており、何度も乗ろうかと悩みましたがカラダにムチを打って大型エイドを後にしました。俺はやれる。
しかし、大型エイドで圧迫通を生じていたポーチを外したついでに、同じくキツく締めすぎていると感じた膝サポーターも置いてきてしまったことが悲劇の始まりとなるのでした。
リタイアを検討するも
大型エイド後は本コースで最も角度のきつい登り、千光寺の坂が待っている。過去四回この坂は全て歩いているが今年は・・・いや、今年も歩きました。
さすがに千光寺を走って消費する体力は今後の全身持久力に影響すると考え、ここは足慣らしも含めて歩く判断がいいはず。
歩くだけでも厳しい山道ですが、それでもなんとか登りきり、次の大型エイドがある74km地点を目指します。
しかし下りの道中で事件が、今までサポーターをつけていた膝に激しい痛みが襲いかかりました。この部位の痛みは練習でも5km程度のランニングで生じており危惧していたのですが、サポーターを外してしまったことにより痛みが顕著に出始めてしまいました。やばい。
痛みに耐えながらもなんとかたどり着いたエイドでは既に気力を失いつつあり、ここでバスに乗るかどうかを考える時間がほしく、一緒に走っていた仲間には先にいってもらいました。どうするか。。
残り24kmで3時間半。
普通に考えたらいけるが、最後の難関の清見の坂をこの脚で越えられるのか?
さっさとリタイアした方が道端で回収車を待たなくていいんじゃないか?
悩む・・・うぅ・・・ヴっ!
とりあえず・・・走ろう。せめて80kmは越えよう。
実は60kmの時点でガーミンの電池が切れており、距離計測を5km地点表記に頼ることしかできなくなったため精神的にも辛い状況に追い込まれていましたが、せめてキリのいいとこまで、という性格があと少しだけ走る勇気を与えてくれました。じゃぁいくぞ❗
そして大型エイドをあとにして走り出したその直後、一緒に走っていた仲間が引き返してきて、こう一言。
「リタイアバス乗ります、気持ちが折れました」
おいっ!!!(笑)
思わず流されそうになりましたが、気持ちを押さえ込み80kmの表記ポイントを目指します。
リタイアを完全決意!バス乗車・・・だが
その後は痛みと疲労と倦怠感と眠気に耐えながらもヨチヨチ歩きつつ、時には走りつつなんとか距離をこなしていきます。
ガーミンがないため、今自分がどのくらいはしれているのかもわからない状態で。
「給水所まで残り500m」
この看板を1つの目印にしていたのですが、たまに矢印だけの看板があり、そこでも心を折られながらも気力だけで80km、85kmを通過。既に体は限界を越えていました。
そして
清見の坂の手前である87kmのエイドでリタイアを決意しました。
ここから山を登って一時間で93.5kmの最終関門を抜ける必要があり、両膝、両足裏と腹、背中に激しい痛みを伴った状態ではとても無理だと判断した結果です。
あっけないもので、リタイアをスタッフに申告したときは何も感じませんでした。悔しい気持ちも、何も。
練習していないこの体でよく87kmも走ったな、むしろそう自分に言い聞かせて、納得していました。
ちょうどバスが出たばっかりでしばらく乗車して待っててと言われたので、まずは妻に電話してリタイアを報告。そこから仲間たちのランナーズアップデートを確認して検討を祈りました。
モヤッ
何かが気持ちの奥底から涌き出る
本当にいいのか?本当に無理なのか?
諦めることに対して気持ちは納得しているのに、ボロボロのくせに体がそれを拒否する感覚を感じる。
いや無理だ、これ以上走ったら本当に体が壊れる。と言うか既にこの状態でここまで来れたことがありえない。
自分にそう言い聞かせるも・・・なんでまた俺は
シューズの紐を締めているんだ?
「すみません!やっぱ降ります!」
頭で感じるよりも先にとはこの事だろうか、気がついたら既に清見の坂をかけ登っていました。
あと最終関門まで45分